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2004.10.02

ミス・サイゴン 帝国劇場 市村版

2004年9月29日、2回目の「ミスサイゴン」を観てきました。
プリンシパルキャストはこんな感じ。
 エンジニア:市村正親
 キム   :松たか子
 クリス  :井上芳雄
 ジョン  :岡幸二郎
 エレン  :高橋由美子
 テュイ  :泉見洋平
 ジジ   :高島みほ

率直な感想は...

すごく良かった!

です。前回と比べてしまうのは嫌らしいし申し訳ない気もするけれど、今回は本当に感動しました。台詞が歌がすっと入り込んできてとても説得力をもっていたのです。同じ台詞・歌を歌っているのにどうしてこんなに違うのか。役者の力量・魅力ってこういうことか~と改めて感じました。

特に思ったのは、やはりこの舞台のキモはエンジニアとキムなのだ!ということ。今回の市村・エンジニアと松・キムを観ていて実感しました。この役に説得力がないと他のキャストのキャラクターも活きないし感動が生まれないのです。
今回の市村版は、かなり泣き通しでした。前回一幕をほとんど観ていないということを差し引いても、あぁ「ミス・サイゴン」ってこういう話だったんだと納得できたのは、この日のキャスト達の力量に感激したからに他ならないと思います。
まぁ、元々この日のプリンシパルキャスト、市村さん、松さん、井上君、岡さん、高橋さんが大好きという贔屓目も多分にあるかもしれませんが、彼らは期待を裏切らなかった!

この日は、カーテンコール5回までねばりました。キャスト達も応えてくれました!4回目からはスタンディングオベーションです。こんなに自然に席を立てたのは、生まれて初めて「キャッツ」を観た時以来かもしれません。

さて、細かい感想ですが。

★ストーリー
前回、この話好きかも~と書いたけど本当には判っていなかったのかも。と思いました。この話って、やっぱりベトナム戦争の話であり、男女のストーリーに限って言えば昼ドラや往年の少女漫画(「はいからさんが通る」や「海のオーロラ」)も真っ青の大ドラマチック大河ドラマだったのですよね。前回はこのストーリーのドラマチックさを実はあまり感じられなかったのです。単にそれぞれの事情のある人々を淡々と見せられているという印象でした。

このストーリーは結局のところブイ・ドイ=タムを主軸にした物語だったのだということを改めて感じました。
キムが「命をあげよう」と歌ったのは誰だったのか、
エンジニアの夢を実現してくれるのは誰だったのか、
クリスが平安なアメリカでの暮らしの中で夜ごと夢に見たのは誰だったのか、

そして、ジョン。
二幕の岡さんの「Bui・Doi」は、今思い出しても泣けてくるのです。

 名はブイ・ドイ
 地獄で生まれた
 ゴミクズ
 我々のすべての
 罪の証拠だ
 忘れない
 彼らはみんな我らの子

私にとって、ベトナム戦争には”触れてはいけないパンドラの箱”のように苦手な部分があるのです。それは戦時中・後の米兵とベトナム市民との関わり。一方からだけの事情を見せられるのとは比べ物にならない戦争の悲惨さが表現されるわけで、ただでさえ戦争を嫌悪する私には耐え難いのです。
例えば、映画「カジュアリティーズ」はそれがあまりにも陰惨で、それでブライアン・デ・パルマが嫌いになったほど。
しかし、それは当然避けては通れない戦争の現実であり(事実はもっと悲惨なのだと思うけど)、それだけに救われない、辛い、哀しい、もう観ていられない~となってしまうのです。
「Bui・Doi」に歌われている内容は、当時「偽善」のそしりも受けたこともあったでしょう。それでも、ブイ・ドイ達への救済を叫ばずにはいられなかったジョンの心情を思うと、やはり涙が出てきます。

会場ロビーには衣装が展示してありました。
また、参考衣装として実物の防弾チョッキが。「是非お手にとって重さを確認してください」との注意書きが。
お手にとって確認ください

手にとって見た防弾チョッキ。確かに重い!銃痕とおぼしき穴も開いていました。きっとクリスやジョンも着たのでしょう。
防弾チョッキ

★キャスト
■エンジニア市村正親
エンジニアの派手服とキムの婚礼衣装「モーツァルト!」では、父親役ということで独特のアクの強さは抑え目に演じてらしたと思います。「リチャード三世」では、ギラギラ度満載で魅せてくれてました。そして、エンジニア!はまり役です。
同じ歌、振り付けでなぜこの方が演じると笑いが起きるのでしょう。ちょっとしたマイム一つで観客の心をつかみます。ついつい目が市村さんを追ってしまいます。

チャーミングで魅力的。野心家なのに憎めない。そして痛々しいほどのアメリカに対する憧れ。

タムを利用してなんとかアメリカへのビザを市民権をと望む姿はエゴ丸出しなのに、自身ハーフであるために周りから見下され虐げられてきたであろう彼がタムを抱き上げる姿には、自分の”駒”として大事にするというだけでなく、タム=希望の子に対する愛情が確かにあったと思うのは私の贔屓目なのでしょうか。

「アメリカン・ドリーム」のナンバーを歌うエンジニアは、この後の絶望的な展開をさらに盛り上げる伏線として素晴らしいの一言につきます(ところで、この「アメリカン・ドリーム」ってなんか浜田省吾の「Money」とかぶります(^^;;)。
で、ラストのタムをしっかりと抱きしめている姿は、自分の夢が崩れ去ってしまったかもしれない、でもすがりつきたいという絶望と、タムに血を流すキムを見せまいとする優しさとが混同しているような気がしました。
年と共に、そりゃぁ激しく踊ることはしないけれど、さらりと流れるように軽くマイムするだけで十分に演じられるのはやはり市村さんの力量でしょう。畑違いかもしれませんが、この辺は最近の古田新太の殺陣と通じるような気がします。


■キム松たか子
松さんは「モーツァルト!」のコンスタンツェ役を観て惚れぬいてしまったわけですが、キムもお見事でした。

前回観た時はイヤにあっけなく思えたラストシーンも、母としてタムの幸せだけをよすがに生きた3年間、こうするしか道は無い、まさに自分の「命をあげよう」という壮絶な母の決意と、儚い恋に破れた女の切なさが十二分に表れていて、泣かずにはいられませんでした。
エレンとの直接対決シーンも「そんな信じられない。信じない。タムはどうなるの?タムを幸せにしてくれるのはクリスだけなのに!」と、自分の恋が破れたショックでパニックになりつつも、(キムが夢見た)タムの幸せを壊さないで!という絶叫ぶりが心につきささりました。

キムの役は、その”母”ぶりがどれだけ表現できるかがキモであると思っているのです。母親になる前の、処女・キムというのはそりゃぁ本当に若い(^^;; キム達には敵わないかもしれないけれど、ラストシーンの意味を考えるとただの少女のままのキムでは、その愛情の深さ、決断の切なさ、哀れさ、残された人たちに与える衝撃が伝わらないと思います。

松・キムはそういう意味では、大満足です。処女・キムのシーンでも、ただ純真なだけな少女ではないわけですよ、キムは。村を焼かれ、目の前に黒焦げになった親の姿を見てたりするわけですよ。その彼女が愛したのがGIのクリスという皮肉さが、切なくてたまりません。

あと、なんていうのかな。苛烈な体験をしてもなお失われないキムの初心さ、娼婦になってもいつまでも慣れない純真さというのが観ていて説得力がありました。3年後(1978年)のバンコクで際どい衣装で踊るシーンがありますが、知念・キムはなまじダンスが上手いせいもあるけれど、上手いんだよね。腰の振り方が(^^;; 対して松・キムは3年経っても、初めてミス・サイゴンコンテストにデビューした時よりは若干慣れてきたとはいえ、やっぱりどこかぎこちない腰の振り方(^^;; そこが一途にクリスを愛しタムとの生活のためにこんな仕事をしているけれど、心から娼婦にはなりきれないキムとして説得力がありました。だからこそ、あのラストシーンの展開になるんですよね。キムがもっとしたたかな女性だったら、もっと違ったラストになっていたでしょう。


■クリス井上芳雄
左がクリスの軍服。右はアメリカン・ドリームのダンサーズの派手派手衣装またまた、私にとっての「モーツァルト!」組です。「エリザベート」は観逃しているのですが、前よりさらに上手くなっていた!実は事前情報で「井上君のクリスがいいらしい」という評判は聞いていたのだが、本当によかった。
前回はクリスが石井一孝さん、ジョンが岡幸二郎さんだったのですが、この時の二人は同期の親友って感じ。今回のクリスとジョンはどちらかというとクリスが新兵で(一度本国に戻っているみたいなので新兵ってことはないだろーが)、先輩・後輩の関係のような気がしたのですが、それがすっごくはまっていた。
新兵クリスと、世話焼きジョン。なんかね、この関係が物語的にまたまた説得力があったのです。泥沼と化すベトナムに降り立った心身ともに純真な新兵クリスは、そこでまさに地獄を見て深く心に傷を負ったことでしょう。そのクリスを暖かく見守る頼りになる先輩GIジョンという相関図が非常にしっくりきたのです。

ともすれば、優柔不断、不幸の元凶、身勝手男と取られがちな(^^;; クリスですが、キムが訪れた後のホテルの部屋で、エレンを前にまさに血を吐くような気持ちで心情を激白するクリスの姿に胸を打たれました。
ここに、ベトナム戦争の一つの現実があるのだと。
確かにキムを心から愛した。それは間違いない。でも、(おそらく)ベトナムでの様々な悪夢のような経験により心に深い傷を負ったクリスを救ったのはきっとエレン。そのエレンを今は愛している。それでも、キムが生きていると判れば彼女の幸せを願ってやまない。底抜けに心優しいおよそ戦争には不向きな一人の男性として、彼の演じたクリスはその存在自体がベトナム戦争の悲劇を物語っていました。


■ジョン(岡幸二郎
あと、1回11月のチケットがあるのですが、この時もジョンは岡さんなんだよなぁ。岡さんのジョンは本当に素晴らしくてなんの不満もないんだけど、坂元健児君(できればクリスは井上君で)とか石井一孝さんや今井清隆さんのジョンも観たかったなぁ~。

が、しかし、この方の「Bui・Doi」に惚れ抜いておりますので、あの歌声があと一回聞くことができるのは嬉しい限りです。
今回の井上・クリスとの相性はばっちりだと思います。石井・クリスももちろん素晴らしかったのですが、クリスが同年の親友だとすると、やはりジョンの大人ぶりと比べてどうもクリスの性格が幼すぎるような気がしちゃいます。
井上・クリスだとジョンは「クリス坊や」なんて言ってからかいながら、キャバレーに連れ出したんだろーなぁなんて勝手な想像が膨らみます。
純粋で真っ直ぐに人を愛するクリスをジョンはほっとけなくて、帰国してからもあれこれと世話をやいたりして。もしかしたら、エレンをクリスに引き合わせたのはジョンかもしれない。などと本当に背景の物語が膨らんで想像できます。
ジョンは、この物語の中で全ての真実と現実を知っている大人の男と感じました。


■エレン(高橋由美子
実は高橋由美子さんを舞台で観た最初は「モーツァルト!」だったりします。というわけで、この方も私の中では「モーツァルト!」組(^^;;

いやぁ、期待していたキムとの直接対決!期待通りでしたっ。前回は、子供のキムに対してあくまでも大人の女性エレンという感じで抑えた感じがしましたが、今回はお見事!
基本的に心優しく、傷ついたクリスを気遣い、かつて愛したキムや子供のことにも心悩ませられながらも、なんとかしてあげなくてはと思っている大人の女性。でも、ホテルで対面したキムに、「あの人は私の夫」と言うあたりは今クリスが愛しているのは私なのよっ!って女のプライドが出ていていい!しかも、それは一瞬のことで、逆上絶叫するキムをなんとかなだめようというか、キムに対する同情も含ませながら再び穏やかで心優しいエレンへ戻っていったような気がします。この一瞬の火花散る対決が素晴らしかった。

タムを引き取ってとつめよるキムに「それはできない、(自分で)あの人の子供が欲しい」と拒否したエレンだけれど、その後にクリスの激白を聞き、キムの最後を見た後なら、きっとタムを我が子と思って育ててくれるでしょう。そんなふうに感じさせるエレンでした。

正直言うと、知念・キムとANZA・エレンも興味あるんだな。若い二人同士だと、また違った対決になるのかもしれない。


■その他
ドラゴン・ダンサーズの衣装とテュイの軍服前回、一幕を見逃したがため(^^;;にホー・チ・ミンの巨像やドラゴン・ダンスを観られなかったのが心残りでしたが、えぇ、満喫しました!惜しむらくは、この舞台。センターでの演技ばかり。セットも演出も真正面から観る観客を想定しているとみえて、はじの方だった今回の座席では実はホー・チ・ミン巨像は左側1/3が見えなかった...。

あとですね...くっそーエリザベートの時に既に経験済みだったのに、やられたーーと思ったのが9/18からパンフレットが変わっています。最初の頃は舞台写真がないバージョン。今売っているのは舞台写真があるバージョン。次に観に行く時に新バージョンのパンフレットを買うべきか否かすごく迷い中...


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Comments

たしかに!市村さんは良かったよ。
私は、初めて満足したかもしれない。
今まであまり彼の演技に感動できなかったからね。
はじめて感動したんです。

松さんのキムも気になるところだけど、
私はホーチミン像、ドラゴンダンスのとこは大好き。
これが、幸いにも二階正面一列目というああいう大きい所では
非常にラッキーな席だったので、このシーンは堪能いたしました。

やだ、コメント書いたつもりで書いてなかったわ。

市村さん嫌い(^^;; のm-sanが良かったっつーんだから、やっぱりエンジニアは市村さんのはまり役なのね。

筧エンジニアが物凄く気になるよねぇ。まだ観に行くかどうか迷ってる。なんかブログを漁っていると本当に評判いいもんねぇ。市村さんはやっぱり、前回を観てる人に言わせると、年取ったって感じらしいし。あぁぁぁー、悩む~

おはようございまーーすぅ。
初コメント。reonaですぅ。

私もこれ、見たかった~。

うるみさんは、歌舞伎など見られますか?
実は私、ミーハーですが、
野村万歳の大ファンで、一度みてみたいとおもいつつ。

今度チャレンジしてみようかな~。

うるみさんの演劇についてのblogは脱帽です!!
勉強になりますー。

新国立劇場も自宅近くなので、
演劇、チャレンジしてみようかなと思ったreonaですたー。

reonaさん!やだ、コメント返しが遅れちゃった、ごめん。

歌舞伎観たいの!でもまだ一回も生で観た事ないのっ。NHK教育とかで時々やってるのでしか観た事ないのっ。
行く?歌舞伎行っちゃう?
あ、でも、萬斎さんは「狂言」だっ。とつっこんでおこう(笑)
萬斎さんの狂言も観たいのよねぇ。お父さんの万作さんのはテレビで観た事あります。面白かった。

新国立近いんだよねぇー、いいなぁ。11月にやる「喪服の似合うエレクトラ」はチケット取りはぐれて、がっくりしてます。当日券狙いで観られるかどぉか~。

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